故郷
Guest User
· 投稿者: miyukiphd
· 投稿日: 2月 8日, 2018
· 臨床心理学
故郷は日本人にはとても馴染みのあるコンセプトです。故郷は育った場所、というだけではなくて、自分の安心できる場所であり、心を許せる家族、親族、友達のいる場所です。故郷に帰った時に感じる、特別な、温かい感情は日本人特有なものかも知れません。
幼児期に沢山引っ越しをする事が必ずしも悪い、という訳ではないですが、故郷のない人は、大人になってから、自分の場所や友達とのつながりを見出すのが難しいと思う事が多いような気がします。例えば、患者さんの中には大人になるまでに数えられない位引っ越しと転校を繰り返して、友達が出来たと思ったらすぐに次の学校へ転校する、の繰り返しだった、という人達がいます。その人達は大人になってから、友達を作る事はいいとしても、友情を継続していくことが苦手だったり、完璧な場所を求め続ける事があります。
オーストラリアの先住民の方のワークショップに行ったときに聞いたのですが、彼らは自分の故郷を長く離れてしまうと心身の病気になってしまう、というのです。故郷を離れたら、度々故郷に帰らないと生きていけない、というのです。帰省ラッシュというように、年に二回も故郷に帰る日本人にとっても、やっぱり故郷に帰ることはとても大切なのだと思います。特に、祖先を敬う日本人は、オーストラリアの先住民と似ていますね。
あなたには故郷と呼べる場所がありますか?何処ですか?故郷を想像した時に、思い出す事、人、場所はあなたにどんな感情を抱かせますか?
私が東京を離れてオーストラリアに移住してもう17年経ちますが、東京は今でも沢山の思い出、家族・親族、友達が存在する場所です。私の親族は、東京の同じ所に少なくても60-65年は住んでいます。近所でもかなり古株だそうです。私も東京を長く離れてしまうとひどいホームシックになってしまいます。オーストラリアは素敵な国で、多くの人が憧れる地です。とても住みやすい国ですし、子供を育てるのにはとてもいい国です。でも、何かが足りないのです。それは故郷が私にくれる安心感とか、祖先とのつながり、という事なのだと思います。
長い間自分の国を離れて気付いたのは、完璧な場所などどこにも存在しない、という事です。故郷は完璧でなくていいのです。自分が故郷と呼べる国が、町があり、その場所でその土地の文化やそこに住む人々を通じ、自分の存在を再確認出来る事が大切なのだと思います。中東やアフリカから小さなボートに乗ってオーストラリアに命からがら移民した、という患者さんに会ったことがあります。中には、「できる事ならば故郷に帰りたい」「身の安全は確保できたものの、アイデンティティーを失い、心が空っぽだ」という事を言っていた患者さんもいました。彼らは故郷に帰りたくても帰れないのです。
故郷に住み続けている人はむしろ少ないかも知れません。故郷を離れ国内外に移住した方で、幸せに住まれている方も沢山いらっしゃいます。その方々は、移住先が故郷になりつつあるのでしょう。もしくは、定期的に故郷に帰る事で、故郷の有難みを感じているのでしょう。
皆さんには、故郷と呼べる場所がありますか?