心理学的視点から見る幸せとは
Guest User
· 投稿者: miyukiphd
· 投稿日: 4月 14日, 2018
· 臨床心理学
多くの患者さんは幸せを感じられないが為に私に会いに来ます。幸せと精神的な安らぎは誰もがが自然と求めるものなのだと思います。今働いているクリニックは地理的にも、殆どの患者さんは俗に言う“成功者”(高収入、高級住宅、高価な車等を所有している人たち)です。ワーカホリックという訳でもありません。では何故「全てを手に入れている」彼らが幸せを求めて私に会いに来るのか、疑問に思う方もいるかも知れませんね。
サイコセラピーを始める上で、セラピーの目標を設定する事は重要なことです。実際、患者さんに共通している目標は「(生きていて)幸せに感じること。」なのです。でも、幸せを追求するには定義がはっきりしていなければいけません。そもそも幸せとは何でしょうか?
幸せが「ポジティブな感情を感じる事」だと勘違いしてしまったら、その感情を引き出す為だけの事(お酒や娯楽等)をするかも知れません。でも、感情は長続きしません。感情は一時的な体験にすぎません。ではどうすれば幸せになれるのでしょうか?
幸せの定義について
心理学の枠だけでも幸せに関する理論は沢山あります。例えば、マズロー博士の欲求5段階説は我々の欲求をピラミッド型に表しました。人は底辺の欲求が満たされると、更に上の欲求を満たそうとします。下から4つ(生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、そして承認の欲求)は欠乏欲求と呼ばれ、一番上の欲求は成長(自己実現の)欲求と呼ばれています。欠乏欲求は満たされない時に欠乏感を感じる為、皆が達成しようと努力するのに対し、自己実現は皆が努力してまで手に入れようとする欲求でもなければ、皆が達成できる欲求でもないといいます。それぞれの段階の欲求についての詳細は下記をご覧下さい。
生理的欲求:空気、食物、住居、暖、セックス、睡眠
安全の欲求:安全、法律、秩序、安定、恐怖からの解放
所属と愛の欲求:友情、親密な関係、愛情と慈しみ
承認と尊厳の欲求“:目標達成、学習、自立、社会的地位、自尊心、他人からの尊敬
自己実現の欲求:自己実現、自己開発、ピーク体験
欠乏欲求と私たちの幸せと関わりについて
物理的な欲求(下二つの欲求)が国の安全や安定した仕事で満たされても、何処にも居場所がないと感じたり、誰にも自分の価値を認められていないと感じていれば、どうしても幸せを感じられないのです。幸せの要素を探求する為に、収入と幸せ感の関係について研究されて来ましたが、幸せには(物理的欠乏欲求を満たすために)ある程度の収入は必要ではあるが、ある一定の収入を超えると、収入と幸せは比例しないという結果が出ています。私の成功している患者さんは、物理的な欠乏欲求が十分に満たされているものの、精神的な欠乏欲求が満たされていない為、どうしても幸せを感じることが出来ないのです。例えば、名声、収入が増えると、同等の友人知人が増え、その輪に所属する為、同等の彼らに認められる為、もっともっと(名声、収入を得たい)という思いが増え、収入と幸せ度が反比例することもあります。つまり、幸せに近づく方法として、どの欠乏欲求が満たされていないのか、どうしたらその欲求を満たすことが出来るのかを考えればいいのです。マズロー博士はまた、幸せの要素である「ピーク」体験についても触れています。ピーク体験は、至高体験とも呼ばれ、例えば何かに没頭したり、深い瞑想に入った時に感じる、最高の瞬間の事を指し、自己実現を果たしている個人はピーク体験を頻繁に感じていると言います。
セリグマン博士による幸せの要素
セリグマン博士はポジティブ心理学の父、とも呼ばれる存在ですが、幸せについて深く研究を続けています。セリグマン博士によると、幸せには次の5つの精神的な要素が必要だといいます。
快楽:ポジティブな感情
従事・熱中する瞬間:流動感(フロー)
ポジティブな対人関係
目的:人生の意味
達成感
皆さんの生活にはセリグマン博士の提唱する5つの幸せの要素全てが存在しますか?私自身、患者さんに「幸せを100%感じる人などいないのではないか?先生は幸せを感じますか?」と聞かれた事があります。私は「研究結果によると、幸せを感じる人は実は多いのですよ。幸せは苦しみや悲しみ、ストレスがない人生ではありません。色々な事が起こるのが私たちの人生ですが、私自身は幸せをその都度感じられる自分(の人生)に感謝して生きています」と答えます。幸せは負の要素が存在しないことではないのです。自分の欲求を(許容範囲内で)なるべく満たし、そして、自分の欲求が満たされているという事を意識する事で、マインドフルに幸せを感じる事が出来ます。私は、たとえ自分の余命が短いと悟った時でも、幸せを感じていたいと思います。
皆さんも今日から自分の欠乏欲求と幸せの要素を意識してみては如何ですか?少しでも幸せに近づけるといいですね。