恋愛下手
Guest User
· 投稿者: miyukiphd
· 投稿日: 6月 8日, 2018
· 臨床心理学
私が選んだ職業は臨床心理学者です。メンタルヘルスに元々興味があったという訳ではなくて、学者として一生大学で研究をしようと思っていたので、方向性の違う臨床心理を最終的に選んだのも、本当に偶然というしかない程、計画したものではありませんでした。それなのに、私はこの仕事がとても好きです。意識や記憶の研究がしたかったので、(意識や記憶が多大に影響を受ける)トラウマを経験し鬱や不安症等を抱える患者さんを専門としていますが、いわゆる一般的な誰もが経験するであろう人生の悩みを抱えた患者さんに会うのもとても好きです。キャリアの方向性に悩む患者さんや恋愛下手の患者さんに会うと、若かりし頃の自分を見ているようでもあります。こういった人生の悩みに直視するという事自体は本当の自分、幸せを見つけようという試みなので、必然なのだと思います。
誰もが誰かに愛され承認されたいし、永遠に続く愛情を求めているからかも知れませんが、恋愛関係に関する問題で私に会いに来る患者さんは思ったより多いのです。その問題は恋人関係だけではなく、夫婦関係、愛人関係、別れた人への断ち切れない思い、どうしても理想の相手に巡り会えない、など様々です。一番驚いたのは、浮気の問題が想像した以上に多いという事です。どちらかというと理性的、合理的な私は「浮気しないで順序立てて恋愛すればいいのに?」と初めは思ったのですが、よくよくお話しを聞くと、浮気の期間が長かったりするので、その複雑性も含め、私の合理的な見方は役に立ちません。
例えば、何の落ち度もない、むしろ成功している相手と結婚し、自分もとても地位の高い仕事をしている患者さんがいたとします。可愛くて自慢の子供もいるし、家族ぐるみで付き合う友達もいて、仕事も上手く行っていて一見とても幸せそうです。でも、その関係の中で自分の欲しいことを表現できない為に、心が満たされない、と言うのです。そんなときにその空虚な心を満たしてくれる愛人に出会います。そして、愛人と逢瀬を重ねる度に、戸惑いを感じつつ、満たされる気持ちを感じていきます。と同時に葛藤が生まれます。心の何処かで「このままの状態を続けられない」と知っているのです。心理的葛藤はストレスの原因です。それを解消する為に私に会いに来るのです。
私はどんなお話しをすると思いますか?
まず私は不倫を肯定も否定もしません。私の意見は勿論、倫理や社会的モラルの物差しはここでは次元の違う物差しです。心理学は法学と違います。私はまず、その人の親子関係と恋愛歴を探っていきます。
親子関係は恋愛関係の下になる、愛着スタイルを一番最初に習得する場所です。愛着スタイルはどれだけ見捨てられ不安があり、親密性を回避するかによって4つのスタイル(安定型、拒絶型、とらわれ型、恐れ型)に分類されます。後は、その方のご両親がどの様な関係を築いて子供たちの前で愛情表現をしていたか、という事も探っていきます。学びには親子関係の様に直接学ぶこともあれば、両親の関係を観察する事による学びもあるのです。セラピーの中では愛着スタイルだけではなく、恋愛歴を見ながら、どのように満たされない愛情を処理してきたか(例えば、仕事に集中する事で親密な関係を回避する)等を探っていきます。これらの学びは潜在意識に保存されています。どのように何時学んだかを思い起こす事が出来ないのです。その潜在意識に保存されている知識やスキルは、意識されることなく恋愛相手に反映されている場合があるのです。
びっくりしましたか?セラピーに来たときは「どっちを選んだらいいか分からない。決断をするのを手伝って欲しい。」という感じなのですが、私はその事にはまずは触れません。その患者さんの潜在意識に保存されている恋愛の定義や処理方法を顕在化させる必要があるのです。それを探り、顕在化させて、まずはその知識を患者さんと共有します。そして、共有する事によって、大体の患者さんは自分のこれまでの恋愛パターンや現状も理解できるのです。セラピーは昔の傷口に触れる為、感情的に辛かったりしますが、その反面、感情的に理解を深め、現状について違う見方が出来るようになるのです。
その後、患者さんによってはもっと効率の良い対処方法(コミュニケーションや感情調節など)を教える事になります。そして、過去の傷が癒えた時に、本当の意味での決断が下せるのです。安定型の愛着スタイルと効率的な対処方法を習得し、恋愛上手になっていく患者さんを見るのは嬉しい事です。