生きづらい、と感じる人に:スキーマ療法
Guest User
· 投稿者: miyukiphd
· 投稿日: 12月 18日, 2018
· 臨床心理学
カウンセラーとサイコロジストとの違いを以前ブログで書きましたが、私たちサイコロジストはその人の抱えている問題やその根源、クライアント(来談者)の希望等を考慮した上で、研究結果で効果のある療法の中から、より効果が得られるであろう療法を使います。前回、認知行動療法やマインドフルネスについてお話ししましたが、今回はスキーマセラピーをご紹介したいと思います。
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生きづらく感じたり、同じような負の経験を繰り返してしまうという事がありますか?それはスキーマのせいかも知れません。
スキーマという言葉を聞いたことがある人は少ないと思います。スキーマは幼少期の体験をもとに作られる私たちの物の見方、感じ方、対応の仕方を導く大まかなガイドライン、フレームワーク、枠の様なものを言います。私たちが生活をする上で、膨大な情報を寸時に理解し、素早く行動を起こす事は生き残るという意味でとても重要です。前にもステレオタイプの時にお話しをしましたが、ステレオタイプがある一定の物事や人に対する大雑把な見方だとしたら、スキーマは自分、他人、世の中を理解する時に使われる更に大雑把な枠だと思ってください。スキーマセラピーは色々な患者さんに使われていますが、特に、幼児期に複雑性トラウマ(*下記を参照して下さい)を経験した人に効果があると言われています。
ヤング博士が考案したスキーマセラピーによると、18個の不適応スキーマが存在すると言います。例えば、幼少期に親に酷いネグレクトを受けて育った患者さんがいるとして、その人が「必要な時に誰も精神的に頼れる人がいない」という(感情的剥奪)スキーマを持っているとしましょう。その人は、生まれ持った性質にもよりますが、人に感情や思考を全て打ち明けて理解してもらおうとしてしまうかも知れませんし、逆に、落胆したくないからか、個人的な事は全く打ち明けないかも知れません。どちらにせよ、他人との距離感が上手く取れず、結果的に「やっぱり精神的に頼れる人はいない(感情的剥奪)スキーマ」を持続するのです。私が心理学で最も関心のあるものの一つに「記憶、学習」があります。私たちが物事を学ぶ際、(掛け算の様に)意識的に学ぶ事もありますが、多くの事を無意識の内に学びます。そして、スキーマの様に無意識に学んだ事は、意識を向けない限り意識下に存在し、その威力を発揮し続け、同じような負の連鎖が継続されるのです。マインドフルネスや認知行動療法が現在、ここにある問題に目を向けるのに対し、スキーマは現在だけでなく、過去の問題も遡って掘り下げていきます。そして、現在も続く負の連鎖を手助けしているスキーマを意識上に持っていき、行動を変えていきます。もしも生きづらい、同じような負の経験を繰り返している、という人は、一度スキーマセラピーを受けてみては如何ですか?
*複雑性トラウマとは、繰り返し過酷なトラウマを経験する事をいいます。そして、そのトラウマは震災など自然現象ではなく、人災・対人によるものという特徴があります。例えば、親から繰り返し暴言や精神的嫌がらせを受ける、身体的虐待や身体的・感情的なネグレクトを受ける、性的虐待を受ける、家庭内暴力にさらされる、という事を言います。それに対し、単純性トラウマは、一度経験されたトラウマを言います。単純性トラウマは、きちんと何時何処でという詳細を思い出せるのに対し、複雑性トラウマはその連続性から、一つ一つの経験を切り離して思い出すことが難しくもあります。そして、複雑性トラウマはスキーマ形成に大きな役割を果たすと信じられています。